Sansho Chirimen

宮崎生まれの
峰山椒ちりめん

鮮度が命のちりめんじゃこ加工

浜田水産の加工場に備え付けられた拡声器に漁協からの入船連絡が響いた。「行きますよ!」浜田水産四代目・浜田哲郎さんの一声にあわせ、眼と鼻の先にある宮崎港へと向かった。午前10時の水揚げは本日2度目の漁、天気が良ければ1日5回ほどの漁を繰り返すらしい。船から軽トラに積み込まれる生シラス(鰯の稚魚)は数十分前まで日向灘で泳いでいたものだ。ここの漁場の餌や潮流が影響するらしいが総じて色白で小ぶりのシラスだ。

急ぎ水揚げ後、数分でシラスを加工場に持ち込む。洗浄され、選別されたシラスが茄で釜へと廻ると、ここは四代目の哲郎さんが茄で上げ作業を仕切る。沸騰した釜に経験による目分量で粗塩を含ませ、生シラスが投入される。「茄で上げ時間は季節によってまちまちですが約2分。温度が下がらぬよう微妙に調整し、柔らかすぎず硬すぎずは目で判断します」。沸騰する釜湯のなかで炊き踊るシラスの頃合いを見て、四代目が次々と茄でシラスを大ザルにすくい上げていく。

浜風を読み、日差しを読んで、ちりめんの乾きを掴む

加工場から次々と運び出される大ザル上の茄でシラスが大淀川沿いの干し場へ廻る。ここは三代目・浜田勉さんが仕切る場のようだ。浜風を読み、日差しを読み、朝一番で干した茄でシラスが「ちりめんじゃこ」(以下ちりめん)に変身する頃、三代目がスタッフに声をかける。「よし!いいだろう」。かけ声と同時に一面に敷かれた白いシート上のちりめんが急ぎ集められた。干し上がったちりめんを手に三代目が言う。「うちのちりめんは関西のカラカラ(強めの乾燥具合)と関東の柔らかいシラス干しの中間くらい。私が50年以上培った干し具合ですが、口うるさいデパートの仕入担当やお客さまからも好評ををいただいてます。馴染みのバイヤーさんから『ちりめんも欲しいけど、たまには浜ちゃんも一緒に来てよ!』つて言われると、なおのこと嬉しいですね(笑)」一方、シートだけになった干し場では、四代目の母上こと峰ばあちゃんとスタッフが大ザルを抱えて現れた。ここで峰ばあちゃんの技の一つが始まる。
カメラを構えると、手首にスナップを効かせて撒くその動作は、まるで相撲取りの塩撒きのようでシラスがきれいに空を舞った。
「みんなあいつの撒き方にはかなわないよ」、三代目が控え目に峰ばあちゃんを褒めた。

ちりめん産地で作る山椒ちりめん

ちりめんが干し上がったら、いよいよ峰ばあちゃんの山椒ちりめんの加工が始まる。
「特に細かな極上のちりめんを使います。炊き上がるまで約1時間。最初はちりめんにお酒を入れて含め煮をし、程よいところで醤油とみりん、入れるものはこれだけです。
煮汁がちりめんに吸い取られ、汁っ気が無くなるまで焦げつかないように炊き上げますが、塩気や甘味は極力控え目に、サラッという感じに仕上げます。

天日干しの山椒ちりめん

峰山椒ちりめんの最大の特徴がある。峰ばあちゃんの山椒ちりめんは天日干しにこだわる。峰ばあちゃん曰く「椎茸や干物など何でもそうですけど、天日干しは旨みが増します。
長年作り続けていますが、私一人が作る量ですし、味付けも私仕様のあっさり風味です。それでも大勢のお客さまが買ってくださる。嬉しいですね。